1999年に発表したアルバムが全世界で100万枚以上の売上を記録するなど、当時の若者を中心に多大な影響を与えたパンクバンドHi-STANDARD。
パンクカルチャーの先頭に立ってシーンを牽引し、絶大なる人気を誇っていた彼らは2000年、理由を一切公表することなく、突然その活動を止めた。
まるで事実かのように吹聴される噂、次第に明らかになるメンバー間の確執......。
様々な言葉が一人歩きするなか、ずっと胸に秘めていた想いが3人にはあった――。
時は流れ、2011年に奇跡の再始動を遂げたのをきっかけに、Hi-STANDARDは2017年、自身初のアリーナツアーを成功させた。そして今、かつて伝説と呼ばれた3人が自身の絶頂とドン底について、圧倒的な演奏シーンやほぼ全編が初公開となる貴重な映像群とともに赤裸々に語る。
なぜ我々はHi-STANDARDに青春を捧げたのか、なぜあの3人は今なお輝き続けるのか、その答えはこの作品の中にある。
2018年9月9日、7年前に奇跡の再始動を遂げたパンクバンドHi-STANDARDは、ZOZOマリンスタジアムで開催された<AIR JAM 2018>を大成功に導いた。3人が放った圧倒的な熱量と凄まじい演奏、そして会場を包み込んだ温かな一体感は、驚くべきことに、18年も前に同じ場所で行われた<AIR JAM 2000>以上の光景を描き出した――。今作は、今なお進化を続ける日本を代表するパンクバンドHi-STANDARDの栄光と挫折、そして誰もが予想しなかった再始動の裏側に迫ったドキュメンタリー映画である。
Hi-STANDARD が結成された1991年は、ちょうどバンドブームが終焉を迎えた頃だった。あれだけ賑わったライブハウスからは人がいなくなり、バンドはダサいものとして扱われていた。しかし、Hi-STANDARDの3人は希望に満ちていた。速くてメロディアスなパンクロックという、後にとんでもない数のフォロワーを生み出したサウンドを志向した彼らは、がむしゃらに自分たちの音楽を追求し続けた。その結果、彼らの評判は口コミで広がっていき、閑散としていたライブハウスに人が戻ってくるようになる。
そこからの勢いは凄かった。1st アルバム『GROWING UP』、2nd アルバム『ANGRY FIST』と作品を出すごとに人気を拡大し、1998年に開催された主宰フェス<AIR JAM ‘98>には3万人もの観客が集まった。海外への進出も果たし、1999年には自主レーベルPIZZA OF DEATH RECORDSを設立。そして発表された3rd アルバム『MAKING THE ROAD』は全世界で100万枚以上のセールスを記録し、Hi-STANDARDの人気は絶頂を迎えた、かのように見えた。<AIR JAM 2000>を最後に、Hi-STANDARDは人知れず活動を停止したのだ。
その裏には、ひと言では語り尽くせない3人の様々な感情が渦巻いていた――。
シーンを駆け上っていった90年代、沈黙を保った00年代。活動停止の真相とそれぞれの思いを語るメンバーの言葉は非常に生々しく、これまで事実として認識されていたストーリーと異なる場面があることに気付くだろう。それを裏付ける当時の映像はほとんどが初出のもので、思わず体に力が入る。数々の発言や映像を通じて、様々な困難を乗り越えながらもDIYであり続けることの意味を感じ取れるだろう。メンバーがここまで赤裸々に語る音楽ドキュメンタリー作品は他に類を見ず、巧みな編集と相まって、すさまじい緊張感がスクリーンから伝わってくる。
Hi-STANDARDの活動が止まってから10年以上が経過した。誰が見ても修復不可能だと思われていた3人の関係性は、東日本大震災をきっかけに大きく変化した。<AIR JAM 2011>や東北開催となった<AIR JAM 2012>、16年ぶりとなる新曲『ANOTHER STARTING LINE』の発表、<AIR JAM 2016>の開催、18年ぶりとなるフルアルバム『The Gift』の発表とそれに伴うアリーナツアー――。ハイスタは完全に蘇った。しかも、10年代の3人には90年代を上回るパワーが備わっていたのだ。
冒頭にも書いたように、これはHi-STANDARDの歴史を振り返るドキュメンタリームービーだ。そして、彼らの物語はこの先もまだまだ続く。それはなんと幸せなことだろうか。